コラム

「再生医療」って聞くけど、何が再生するの? iPS細胞の役割を易しく解説

「再生医療」という言葉はテレビやニュースでよく耳にしますが、具体的にどんな治療なのかご存知でしょうか? 再生医療とは、病気やケガで損傷したり、機能が衰えたりした組織や臓器の機能を、薬で症状を抑えるのではなく、根本的に回復させることを目指す医療技術の総称です。まるで壊れた体の「部品」を修理したり、新しい部品に交換したりするかのように、私たちの体をもう一度元気な状態に戻すことを目標としています。

この「再生」を促す方法は一つではありません。再生医療は非常に広い概念であり、主に以下の3つのアプローチから成り立っています。

  1. 細胞治療: 生きた細胞を使い、体外で増やしたり加工したりした元気な細胞を移植し、機能を補ったり、組織の修復を促したりする方法です。
  2. 非細胞性治療(物質の活用): 細胞そのものではなく、体内の細胞の働きを活性化させる成長因子(タンパク質)や遺伝子などを使い、体が持つ自然な治癒力や再生能力を最大限に引き出す方法です。
  3. 組織工学(足場の活用): 細胞が定着しやすい人工的な素材(足場)と細胞を組み合わせて、新しい組織や臓器を体外で作成してから移植したり、体内で再生を促したりする方法です。

このように、再生医療は細胞だけでなく、遺伝子やタンパク質などの物質も使って行われる多様な技術の総称なのです。

再生医療の多様なアプローチの中でも、近年特に大きな注目を集め、急速に発展しているのが「細胞治療」です。そして、この細胞治療の可能性を飛躍的に広げたのが、山中伸弥教授(京都大学)によって開発されたiPS細胞です。

細胞治療には、これまで骨髄や脂肪など、成熟した体から採取できる体性幹細胞も使われてきました。しかし、これらの細胞は「採取できる量や増やせる量に限りがある」「なれる細胞の種類が限られる」といった課題を抱えていました。

そこで登場したiPS細胞は、皮膚や血液など体の身近な細胞から作られ、「どんな細胞にも変身できる」という多能性を持っています。例えるなら、心臓の部品も、神経の部品も、骨の部品も、必要なだけ無限に作り出せる万能な粘土のようなものです。この万能性こそが、iPS細胞が再生医療の「切り札」と呼ばれる所以なのです。

iPS細胞は「夢の技術」と思われがちですが、その研究はすでに臨床段階に入り、現実のものとなりつつあります。

例えば、失明の危険がある目の難病(加齢黄斑変性)や、体を動かすことが難しくなるパーキンソン病などに対して、iPS細胞から作製した元気な細胞を移植する治療の臨床研究や治験が、日本国内で精力的に進められています。これは、これまで治癒が困難とされてきた難病の治療法を根本的に変える大きな一歩です。

これらの最先端の細胞治療において、理想的とされるのが「あなた自身の細胞」から作ったiPS細胞を使うことです(自家移植)。なぜなら、自分の細胞由来のiPS細胞を使う場合、移植した細胞が体内で拒絶されるリスクを大幅に減らすことができ、治療の成功率を高めることにつながるからです。

しかし、iPS細胞は病気になってから慌てて作製するよりも、体が若く健康な状態にあるうちに作製しておく方が、より高品質で元気な細胞を用意できます。

「パーソナルiPS」のサービスは、まさにこの未来の治療に備えるための準備です。若く元気な細胞をiPS細胞として冷凍保存しておくことは、将来、再生医療がさらに確立された際に、すぐにご自身の細胞で最善の治療を受けられるようにするための「未来への健康投資」だと言えるでしょう。