この夏休みにiPS細胞について検索をしたあなた!宿題の自由研究に困っているのではありませんか?
今回はそんな小中学生の皆さんに向け、iPS細胞についてわかりやすく説明したいと思います。自由研究の調べものなどに役立ちましたら幸いです。

iPS細胞とは
私たちの体は、形も働きも違う、さまざまな細胞が集まってできています。多くの細胞は、自分を半分にちぎって「分身(自己複製/じこふくせい)」を作り続けることで、数を増やすことができますが、違う細胞に「変身(分化/ぶんか)」することはできません。
例えば、皮膚(ひふ)の細胞は心臓(しんぞう)の細胞に変身できません。皮膚の細胞は自分の分身しか作れないため、皮膚の細胞しか増やせないのです。
一方、iPS細胞は分身だけでなく、あらゆる細胞に変身する力を持つことから、「万能(ばんのう)細胞」とも呼ばれています。

iPS細胞のすごさ
実はiPS細胞ができる前から、ES(イーエス)細胞という万能細胞がありました。ES細胞は動物やヒトの胚(はい:赤ちゃんのもととなる細胞のかたまり)から、変身できる細胞をとってきて培養(ばいよう:増やして育てること)したものです。
しかし研究が進み、変身できない細胞を改造して、変身できるようにする画期的な方法が見つかりました。こうして作られた万能細胞がiPS細胞です。皮膚の細胞を改造してiPS細胞にすることで、そこから心臓の細胞を作れるようになったのです。
そしてiPS細胞ができたことで、採取(さいしゅ:取り出すこと)しやすい尿や歯などの細胞から、欲しい細胞を作れるようになりました。それまでは動物を犠牲(ぎせい)にしたり、人に手術をしたりして欲しい細胞をとっていましたが、iPS細胞のおかげで、こういった動物や人の負担を減らすことができます。
iPS細胞は新しい薬の研究のほか、再生医療(さいせいいりょう)での活躍が期待され、実際の治療(ちりょう)に使う研究が進んでいます。
再生医療とは、病気やケガで悪くなった部分を、再生して治す医療のことです。これまでの再生医療では、治したい臓器を、健康な人から患者(かんじゃ)さんに移植(いしょく)する治療法がよく行われました。しかし、心臓などの重要な臓器だとくれる人(ドナー)がなかなか見つかりません。
こうした問題も、iPS細胞で解決できると考えられています。患者さん自身の細胞からiPS細胞を作り、そこから欲しい細胞を作って移植できれば、ドナー不足や拒絶反応(きょぜつはんのう)などの問題を気にする必要がなくなります。
iPS細胞の歴史
ES細胞はiPS細胞ができる前からあり、1981年にイギリス・ケンブリッジ大学のエバンス博士らによって、初めてマウスのES細胞が作られました。その後、1998年にアメリカ・ウィスコンシン大学のトムソン教授が、ヒトのES細胞を作ったことで、これまで治せなかった病気が治せるようになると期待されましたが、なかなかそうはなりませんでした。
その理由は、ES細胞の作り方にあります。
受精卵(じゅせいらん)が少し成長したものを「胚(はい)」といい、胚は一見するとただの細胞のかたまりです。しかし、その細胞1つ1つが分身と変身を繰り返すことで、皮膚や心臓、筋肉、血液などの全ての組織が作られてゆき、やがて赤ちゃんになります。胚の細胞はさまざまな細胞に変身する力を持ち、ES細胞は壊した胚からその細胞を取り出して作られます。
ですので、ヒトのES細胞を作る場合はヒトの胚、つまり人間の赤ちゃんになるかもしれないものを壊して作ることになります。そのため、「ES細胞を作るために、人の命を犠牲にしているのではないか」と考える人も少なくありませんでした。こうした事情に配慮(はいりょ)して、ES細胞の作製(さくせい)には不妊治療(ふにんちりょう)で使われず、捨てられる予定だったヒトの胚が使われましたが、それでもES細胞を使いたがらない人や、厳しく規制する国が出てきたことで、ヒトのES細胞を作ること自体が難しくなりました。
こうした事情から、胚を使わない万能細胞が強く求められていたところ、京都大学の山中伸弥(やまなか しんや)教授が2006年にマウス、2007年にヒトのiPS細胞を作ることに成功したのです。
iPS細胞の材料は胚ではなく、皆さんの体から簡単にとれる細胞です。山中教授はその細胞に、ES細胞で働いている遺伝子(いでんし)を組み込み、ES細胞のまねをさせることで、万能細胞(iPS細胞)が作れることを発見しました。iPS細胞は、ES細胞の功績(こうせき)から生まれたのです。
iPS細胞はどうやって作る?
iPS細胞は、普通の細胞にES細胞の遺伝子(山中因子/やまなかいんし、リプログラミング因子)を働かせることで作られます。
遺伝子とは、簡単に言うと体の「設計図」です。この設計図をもとに、私たちの体が作られます。例えば、目や髪の色、顔つきなどが人によって違うのは、この設計図が一人ひとり違うからです。
遺伝子は一つひとつの細胞の中にあり、細胞がどんな働きをするかを決める「指示書」のような役割もしています。
iPS細胞を作るときは、もとからある遺伝子を書き換えるのではなく、外から「万能細胞になれ」という特別な指示(遺伝子)を追加で入れて働かせます。すると、皮膚などの細胞が「自分は皮膚だ」ということを忘れて、あらゆる細胞になれる状態(iPS細胞)へとリセットされるのです。

この遺伝子を働かせる方法には、いくつか種類があります。
- ウイルスを使う
ウイルスは細胞に住み着いて増える性質があります。住み着いた細胞の遺伝子に自分の遺伝子を組み込む性質を利用して、細胞に新しい遺伝子を入れて働かせます。
- プラスミドDNAを使う
プラスミドDNAとは、短いDNAが輪になったものです。細胞内に入れても細胞の遺伝子には組み込まれませんが、分身には受け継がれます。
※体の設計図が書かれている紙(素材)にあたるものがDNAで、その中に書かれたタンパク質を作るための設計図(情報)を遺伝子といいます。
- mRNA(エムアールエヌエー)を使う
mRNAはDNAによく似た物質で、遺伝子(設計図)のコピーとして作られます。細胞内でタンパク質を作る設計図となるだけで、役目を終えると分解されます。
少し難しいですが、いずれの方法も細胞に遺伝子を入れて働かせる方法で、iPS細胞を作るうえで欠かせないステップです。
一方、iPS細胞を作るときに無理やり遺伝子を入れることで、細胞ががん化(無限に増えて悪い影響を与えること)してしまう危険性も心配されました。開発当初は、がんを引き起こしやすい遺伝子も使われていたためです。
現在では、がん化しにくい遺伝子に変えたり、細胞の遺伝子を傷つけない方法を使ったりすることで、安全にiPS細胞を作る技術が進んでいます。
進むiPS細胞の「いま」と「これから」
iPS細胞が発見されてから年月が経ち、研究室の中だけでなく、実際の患者さんの治療に使う臨床研究(りんしょうけんきゅう)や治験(ちけん)がたくさん行われてきました。
例えば、目の病気(加齢黄斑変性/かれいおうはんへんせい など)で光を失いかけた人に、iPS細胞から作った網膜(もうまく)のシートを移植する治療法の研究などが進められています。
さらに近年では、iPS細胞から作った2つの新しい製品が、日本で「条件及び期限付き承認(じょうけん・きげんつき しょうにん)」という形で国から認められました。
- パーキンソン病の治療(アムシェプリ)
体が思い通りに動かなくなる脳の病気の患者さんに、iPS細胞から作った神経(しんけい)の細胞を移植する治療法です。
- 重い心臓病の治療(リハート)
心臓の働きが弱ってしまった患者さんの心臓に、iPS細胞から作った心臓の筋肉シートを貼り付ける治療法です。
この「条件及び期限付き承認」とは、安全性が確認され効果が期待できる段階でまずは治療に使い始め、実際の医療現場でデータを集めながら本当に効果があるかをさらに確かめていく仕組みのことです。
このように、研究室の実験から始まったiPS細胞は、実際の病気を治すための治療法として患者さんのもとへ届き始めています。また、患者さんのiPS細胞を使って「なぜその病気になるのか」を突き止めたり、新しい薬を作ったりする研究も、世界中で進められています。
iPS細胞の課題
素晴らしい可能性を秘めたiPS細胞ですが、実際の医療で広く使われるためには、いくつかの課題を乗り越える必要があります。
そのひとつが「時間」と「コスト」です。病気やケガをしてから自分の細胞を取り出し、iPS細胞を作って治療に使うまでには、数ヶ月以上の時間と大きな費用がかかります。
こうした課題を解決するため、国や研究機関だけでなく、民間企業による「バンキング(保管事業)」の取り組みが進められています。
あらかじめ元気な細胞からiPS細胞を作って保管しておくことで、いざ治療が必要になったときに、時間をかけずスムーズに細胞を準備できるようになります。
将来に備えて自分自身の細胞を保管しておけば、移植したときに自分の体が新しい細胞を攻撃してしまう「拒絶反応(きょぜつはんのう)」が起きにくいという大きなメリットもあります。
iPS細胞の使い方を考えてみよう!
これまでの説明を読んで、あなたが考えたこと、感じたことをもとに、iPS細胞の新しい使い方や「どんなルールがあったら良いか」を家族や友達と考えてみましょう。
