最終更新日: 2026年06月02日
肝臓は栄養素の代謝などを担うため、食生活の影響を受けやすく、脂肪肝などの生活習慣病に罹りやすい臓器です。
近年は食生活の乱れを原因とするものや、若い患者の増加が見られ、こういった肝疾患事情の変化とともに、肝疾患の研究や治療法も変わってきています。
今回は、iPS細胞を使った新しい肝疾患の研究や治療法についてご説明いたします。

肝臓の機能と構造
肝臓の主な役割は、体外から仕入れた物質(栄養素、薬など)のやりくりや解毒、そして、脂質の消化を助ける胆汁を作り、小腸(十二指腸)へ分泌することです。
口から入れた栄養素などは、胃腸で細かく分解された後、小腸から吸収されます。小腸から吸収された栄養素などは門脈という血管に入り、血液に乗って肝臓まで運ばれます。
肝臓は肝小葉という六角柱の組織が集まってできており、その柱の中心には静脈(中心静脈)が通っていて、鉛筆のような構造をしています。
小腸からの栄養素などを含んだ門脈や、酸素などを運ぶ動脈は肝小葉に入り、肝小葉の細胞に栄養素や酸素を与えながら、中心の静脈に向かって流れていき、やがて合流します。
肝小葉では供給された栄養素を材料として、体づくりに必要なタンパク質や脂質などを作るほか、エネルギー源となる糖質や脂質は中長期的に保存できる形(グリコーゲン、中性脂肪)にして貯蔵します。
また、栄養素から作った胆汁は肝小葉から出る胆管に回収され、すべての肝小葉で作られた胆汁は胆嚢(たんのう)という袋に集められた後、小腸に分泌されます。
iPS細胞由来肝臓の研究
近年は臓器提供者の不足が深刻であることから、人工臓器の需要がますます高まっており、肝疾患分野でもiPS細胞を用いた治療法の開発が進められています。
2013年には、横浜市立大学の谷口教授らのグループが、ヒトのiPS細胞から血管を含んだ世界初の人工肝臓を作ることに成功しています。
谷口教授らは、受精したての細胞(胚の幹細胞)がどんな臓器に変身するかは、周りの細胞との相互作用や環境によって決まることを参考にし、iPS細胞から作った内胚葉細胞(肝細胞のもと)と、細胞同士の接着などを行う間葉系幹細胞、血管のもととなる血管内皮細胞、以上3種類の細胞を特別な条件で一緒に培養しました。
その結果、48時間ほどで立体的な肝臓の芽(原基)を作れることを発見しました。
この肝臓の芽をマウスに移植したところ、マウス体内で肝臓の芽が成長し、血管の構造や肝機能(タンパク質合成力、薬物代謝力など)を持つ肝臓組織になったことが確認されました。
また肝不全モデルのマウスにこの肝臓の芽を移植したところ、生存率の改善が見られました。
この技術を人に応用できれば、深刻なドナー不足の解消が期待されます。
そして2022年には、東京医科歯科大学の武部教授らのグループが、さまざまな人のiPS細胞から作った肝オルガノイド(小さい人工肝臓)を用いて、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)と遺伝子の関わりを調べる研究を行いました。
肝臓は脂肪を蓄えるため、脂質を摂りすぎると脂肪肝になり、それが進行すると炎症を起こし、NASHになります。
NASHの進行の速さには個人差があることが知られており、多くの患者さんの遺伝子を解析することで、NASHと体質の関連性が調べられてきました。
しかし、遺伝よりも食生活などの生活環境や健康状態などが大きく影響するNASHにおいては、患者さんの遺伝子解析だけでは不十分とする意見もあり、体質との関連を十分に解明できないというジレンマがありました。
武部教授らは24人の細胞からiPS細胞を作り、そこから作った24人分の肝オルガノイドを、培養条件をそろえて解析したところ、特定の遺伝子が個人の代謝異常と連動することで、NASHの進行具合に個人差が出ることを発見しました。
この技術はNASHの研究だけでなく、個体差を反映した疾患メカニズムの解明などに活用できると考えられています。
