最終更新日: 2026年08月21日
病気や事故、生まれつき臓器や組織が損なわれたとき、失われた臓器や組織を作り出す再生医療。
新しい治療法である再生医療の実現のために、世界中で研究がされてきました。
iPS細胞はさまざまな細胞に分化できる「多能性幹細胞」のひとつです。
今回は、このiPS細胞について簡単に解説します。
2006年に京都大学の山中教授によって作製された新しいタイプの多能性幹細胞です。
iPS細胞は「人工多能性幹細胞(Induced pluripotent stem cell)」の略名で、皮膚や血液などさまざまな細胞に分化する能力を持ちます。
体にあるすべての細胞は受精卵が元になっていますが、通常は特定の細胞に分化すると元の状態に戻ることはありません。
iPS細胞とは、体の細胞に特定の遺伝子を導入し、受精卵に近い状態に戻すことで、さまざまな細胞に分化する能力と無限に増殖する能力を持たせた細胞です。
このように人工的に体細胞を多能性幹細胞に誘導することを「リプログラミング」といいます。

近年医学はますます発達していますが、病気やケガなどにより失われた臓器の再生には至っていません。
言い換えれば、再生医療の発展でより多くの病気やケガの治療が可能になるのです。
世界では数十年前から再生医療の研究がされており、1981年にはイギリスのケンブリッジ大学にて、マウスの胚細胞からES細胞(胚性幹細胞:Embryonic stem cell)の作製に成功しました。
また、1998年にはアメリカのウィスコンシン大学にてヒトES細胞の作製が成功しました。
ES細胞の作製には不妊治療で廃棄予定の受精卵を使用するため、いくつかの国で規制がかかっています。
このような背景のなか、受精卵を経ない多能性幹細胞の作製が研究され、日本でiPS細胞の作製が成功しました。
再生医療のテーマの中でもよく取り上げられるのが、ES細胞とiPS細胞です。
両者は性質が極めて近い多能性幹細胞であり、あらゆる細胞に分化する能力と高い増殖能力を持ちます。
細胞を使った治療には他人の細胞を用いる他家治療と、自身の細胞を用いる自家治療があります。
前述したように、ES細胞は受精卵から作製するため、治療に用いる場合、すべて他家治療となります。
他家治療では、免疫拒絶のリスクを抑えるため、免疫抑制剤の投与が必要になります。
一方でiPS細胞は、皮膚や血液など採取しやすい細胞から作製することが可能です。
他家治療も自家治療も行うことができ、患者さん自身の皮膚などの細胞から作製して自家治療に使う場合、拒絶反応が起こりにくいメリットがあります。
iPS細胞の実用化にあたって、特に重視しなければならないのが安全性です。
これまでiPS細胞は、リプログラミングの過程で特定の遺伝子を加えるため、遺伝子に傷がついてがん化する懸念がありました。
現在では遺伝子を傷つけないリプログラミング方法が開発されています。
パーソナルiPSでは、RNA法と呼ばれるリプログラミング方法を行っており、遺伝子を傷つけるリスクはありません。
パーソナルiPSのリプログラミング方法についてはこちら
iPS細胞は再生医療分野の中でも画期的な存在であり、実用化に向けた研究や臨床試験(ヒトに投与する試験)が世界中で行われてきました。
■これまでの歩みと臨床試験
2014年には加齢黄斑変性の患者さんにiPS細胞由来の網膜の移植が行われ、2018年にはパーキンソン病の臨床試験にも用いられました。
そのほかにも、心筋症や心不全などの心疾患、血小板減少症や移植片対宿主病などの血液・免疫系疾患、白血病などの血液がんや多種の固形がんに対しても臨床試験が実施されてきました。
■最新動向と「条件期限付き承認」
現在、日本及び欧米ではiPS細胞を用いた治療や臨床試験がさらに進展しています。
最近では、iPS細胞を用いて作られた心筋症やパーキンソン病の治療薬が医薬品として条件期限付き承認※を得るなど(2026年4月現在)、大きな成果を生んでいます。
また、iPS細胞を培養する際に得られる「エクソソーム」という物質の利用も期待されており、かつては治療できなかった疾患が再生医療によって治せる未来が現実になり始めています。
※条件期限付き承認とは 安全性と有効性の推定に基づき、7年以内のデータ追加収集を条件に再生医療等製品の製造販売承認を得ること。

※2026年5月時点
■多様な応用とこれからの可能性
iPS細胞は再生医療だけでなく、以下のように幅広い分野で貢献しています。
❶ 再生医療
失われた組織や臓器の機能を、自身の細胞から作った細胞の移植によって回復させます。
❷ 創薬研究
病気の患者さんの細胞から病状を再現したiPS細胞をつくり、ALSや家族性アルツハイマーなど難治性の病気の原因究明や新薬開発に役立てます。
❸ 安全性の検証
薬の副作用を事前に細胞レベルで確認し、患者さんにとって最適な治療を選択します。
誕生から現在に至るまで、iPS細胞は基礎研究の段階を経て、実際の治療や新薬開発に直接貢献するフェーズへと移行しました。
今後も世界中で技術開発が進むことで、これまで諦めるしかなかった病気を克服し、一人でも多くの患者さんに希望を届ける次世代医療の切り札となることが期待されています。
>>>パーソナルiPSについてはこちらで詳しく解説しています。
