リプロセルの成長戦略

1.iPS細胞技術を核とした再生医療プラットフォーム企業

 【iPS細胞とは】

 iPS細胞(人工多能性幹細胞)とは、皮膚や血液などの体細胞に特定の因子を導入し、受精卵に近い状態へと初期化した細胞で「万能細胞」と呼ばれています。

 2006年に京都大学の山中伸弥教授(2012年ノーベル生理学・医学賞受賞)らによって開発されました。iPS細胞は、ほぼ無限に増殖する能力と、神経や心筋、血液など体のあらゆる細胞に変化(分化)する「多能性」を併せ持っています。この「万能細胞」としての特性から、病気や怪我で失われた機能を回復させる「再生医療」や、患者様の細胞を用いて病気のメカニズム解明や新薬開発を行う「創薬」への応用が世界中で期待されています。

 株式会社リプロセルは、この画期的なiPS細胞技術とともに成長してきた企業です。「iPS細胞技術を核とした再生医療プラットフォーム企業」として、難病やがんに対する新たな治療法の確立に挑み続けています。

 当社の成長戦略は、iPS細胞技術プラットフォームを基盤とした3つの柱によって支えられています。

  1. 中長期的な成長を牽引する「再生医療製品の開発(パイプライン)」
  2. 世界基準の品質で治療を支える「臨床グレード細胞の製造基盤(CDMO)」
  3. 安定的な収益を生み出す「研究支援製品・サービス」

 これら3つの事業活動が相互に連携し、2030年、2050年に向けて拡大する再生医療市場において、世界No.1企業となることを目指しております。

(1)中長期成長を牽引する4品目の再生医療パイプライン

 当社は現在、有効な治療法が確立されていない神経疾患およびがん領域において、4つの主要な再生医療製品の開発を進めています。これら製品の実用化により、飛躍的な事業成長を目指します。

脊髄小脳変性症治療薬「ステムカイマル」

 脊髄小脳変性症は、運動機能が徐々に失われ、最終的には寝たきりとなる進行性の難病であり、現在、進行を抑制する有効な薬剤は存在しません。当社が開発する「ステムカイマル(脂肪由来間葉系幹細胞)」は、日本および台湾での第Ⅱ相臨床試験を完了しており、SARAスコア(運動失調の評価指標)の改善や長期間の症状安定化を示唆するデータが得られています。現在、日本・台湾それぞれの国において承認申請の準備を進めており、早期の実用化を目指しています。

・ALS治療を目指す「iPS神経グリア細胞」

 進行が速く、根治治療のない指定難病である筋萎縮性側索硬化症(ALS)に対し、iPS細胞由来の神経グリア細胞を用いた治療法の開発を行っています。動物実験においては、運動機能の低下抑制と運動ニューロンの生存維持が確認されました。今後は臨床試験の準備を進めるとともに、将来的には横断性脊髄炎など他の神経変性疾患への適応拡大も視野に入れています。

固形がんを標的とした「腫瘍浸潤リンパ球(TIL)輸注療法」

 患者様自身の腫瘍組織からリンパ球を採取・培養し、がん細胞を攻撃させるTIL療法は、子宮頸がんやメラノーマなどの固形がんに対する新たな治療法として期待されています。米国では既にFDA承認事例が出るなど注目度が高まる中、当社は慶應義塾大学による先進医療B「子宮頸がんを対象とした腫瘍浸潤リンパ球輸注療法」において細胞製造を担当し、2024年11月には実際の投与が開始されました。

次世代免疫療法「グリピカン1(GPC1)CAR-T細胞療法」

 従来のCAR-T療法は血液がんで高い効果を上げていますが、固形がんでは課題が残されていました。当社は、扁平上皮がんや膵がんなどの固形がんに特異的に発現する「GPC1」を標的とした次世代CAR-T療法の開発を進めています。AMED(日本医療研究開発機構)の支援事業にも採択され、アカデミアとの共同開発を通じて臨床試験の準備を加速しています。

(2) 日米欧対応の臨床グレード細胞製造基盤と独自技術

 再生医療の実用化には、高品質かつ安全な細胞製造技術が不可欠です。リプロセルは、日本、米国、欧州(スペイン・提携企業)の3拠点にGMP(医薬品の製造管理および品質管理の基準)に準拠した細胞加工施設を有しており、各地域の規制(PMDA、FDA、EMA)に対応したグローバルな製造体制を構築しています。これにより、組織採取から製品製造までを一貫して受託できる体制を整えています。

 また、当社の技術的競争優位性は「安全性」と「汎用性」にあります 。

・ mRNAリプログラミング技術: ウイルスベクターを使用せずmRNAを用いることで、ゲノムを傷つけることなくiPS細胞を作製できます。これにより、がん化や遺伝子異常のリスクを低減し、臨床応用において極めて高い安全性を確保しています。
・ HLAノックアウト技術: 独自のゲノム編集技術により、免疫拒絶の原因となるHLA(免疫の型)を消失させたiPS細胞の作製に成功しました。これは、あらゆる患者様に移植可能な「ユニバーサルドナーセル」の基盤となる革新的な技術です。

 さらに、iPS細胞培養上清から高精製・高濃度に抽出した「iPSエクソソーム」の研究開発も推進しており、老化細胞の若返りやコラーゲン産生維持などの効果を活用した新たな医療・ヘルスケア分野への展開も図っています。

) 世界の創薬・研究を支えるグローバル研究支援基盤

 創業以来培ってきた技術力を背景に、世界のアカデミアや製薬企業の最先端研究を支える製品・サービスを提供しています。日本、米国、英国、インドのグローバル4拠点を活用し、各地域の需要に応じた事業展開を行っています。米国市場での試薬販売、欧州でのヒト組織を用いた薬効薬理試験、インドでのゲノム解析サービスなど、地域特性を活かした事業ポートフォリオを構築しています。 これらの研究支援サービスが安定的な収益基盤となることで、長期的な視点に立った再生医療製品開発への投資が可能となり、健全な経営体質を維持しながら挑戦を続けることができます。

将来の展望

 再生医療市場は、法整備の進展とともに拡大期を迎えており、2050年には世界で53兆円規模に達すると予測されています。

 リプロセルは、研究支援サービスで安定収益を確保しつつ、多くの再生医療製品の承認・実用化を通じて、非連続的な成長を実現します。そして、世界中の患者様に革新的な治療を届けることで、再生医療の未来を切り拓いてまいります。