Vol.3. 2022.3

創薬研究・再生医療のためのiPS細胞技術

iPS細胞由来感覚神経細胞(2)

iPS細胞から作製された感覚神経細胞を用いて、さまざまな刺激への反応を観察する事が出来ます。 神経の活動電位を測定する多点電極アレイ(MEA)は薬剤などによる感覚神経の反応を電気的に測定することで、痛みや刺激に対する薬剤のスクリーニング、皮膚の代替モデルや刺激物の評価などに応用できます。

 カプサイシン(Capsaicin)への反応

カプサイシンは、唐辛子(Capsum, Red pepper)に含まれる辛み成分で、感覚神経細胞では、カプサイシン受容体であるTRPV1が特異的に発現しています。TRPV1は辛みだけでなく痛みを感知したり、温度刺激も感知する受容体として知られています。リプロセルがiPS細胞から分化誘導して作製した感覚神経細胞では、様々な受容体が発現していることが明らかになりました。TRPV1もヒトのDRG(Dorsal Root Ganglion)と同程度の遺伝子発現量であることが分かっています(下図右)。
):StemRNA Sensory neuron
):human DRG
※下図ではヒトiPS細胞の発現量を1としています。

 
TRP

 

さらに、このiPS細胞由来感覚神経細胞では、カプサイシンに反応して神経活動が活発になることもわかってきています。培養している神経細胞の活動は、MEA(多電極アレイ)システムを用いて測定することが可能です。近年では、ハイスループットでの測定も簡便になり、多くの研究者がMEAシステムを使用しています。リプロセルはAxion社のMaestro Proシリーズを使用して、カプサイシンに対する反応を評価しました。その結果、添加したカプサイシンに反応し、iPS細胞由来感覚神経細胞のスパイク頻度(Mean Firing Rate)とバースト数(Number of Burst)が増加しました。

 

Mean Firing Rate (Fold)
Number of Burst (Fold)

 

 メントール(Menthol)への反応

メントールはメンソールとも呼ばれ、清涼感をもたらすミントの主成分です。メントールに対する受容体の一つがTRPM8であり、カプサイシン受容体のTRPV1と同じスパーファミリーに属しています。リプロセルが作製したiPS細胞由来感覚神経細胞では、TRP8がヒトのDRG(Dorsal Root Ganglion)と同程度の遺伝子発現量であることが分かっています。さらにメントールにおいても、iPS細胞由来感覚神経細胞のスパイク頻度(Mean Firing Rate)とバースト数(Number of Burst)が増加しました。これらの結果から、ヒトiPS細胞由来感覚神経細胞は、創薬や化粧品開発の分野で使用されることが強く期待されます。

 

Mean Firing Rate (Fold)
Number of Burst (Fold)