ゲノム編集技術の実用化

ゲノム編集は、人工のDNA切断システムを用いて目的の遺伝子だけを正確に改変する技術です。従来の遺伝子組み換えよりも効率よく遺伝子を改変できるため、農業や医療の分野などで幅広い応用研究が行われています。2012年に開発されたCRISPR/Cas9によって、ゲノム編集は急速に進展しました。

農林水産分野

2019年に米国で世界初のゲノム編集食品として販売が開始されたのは、オレイン酸高含有大豆を原料とした高オレイン酸油です。オレイン酸をリノール酸に変化させる遺伝子をノックアウトし、大豆内のオレイン酸の割合を増やしています。この大豆では、CRISPR/Cas9ではなく、TALENというゲノム編集技術が用いられています。

日本では、血圧上昇抑制などの効果が期待される「GABA高蓄積トマト」の青果販売が2021年に始まっていて、天然毒素のソラニンやチャコニンなどを生産しないジャガイモは、野外栽培実験段階です。ミオスタチン遺伝子の機能を欠損させて筋肉量を増やした「肉厚マダイ」や、食欲が衰えず通常よりも速く成長する「高成長トラフグ」も2021年に実用化されています。

創薬・基礎生命科学分野

従来、膨大な時間と費用がかかっていた医薬品開発の分野でも、ゲノム編集は使用されています。

原因遺伝子をノックアウトした疾患モデル細胞・動物が、CRISPR/Cas9によって非常に効率よく作製できるようになりました。疾患に特異的な遺伝子変異を導入できるだけでなく、変異部位を修復してコントロールとなる細胞を作製することもできます。また、複数遺伝子の同時改変や、外来遺伝子を導入したノックインマウスの作製も可能になり、創薬のスピードアップに貢献しています。同様に、iPS細胞とゲノム編集技術を応用した疾患研究も幅広く行われいます。

一方、ゲノム編集をさらに安全で手軽、かつ正確に行うための改良や開発も進行中です。CRISPR/Cas9とは別の人工酵素の開発や、AIがゲノム編集のデータ処理をサポートするシステムの開発などが進んでいます。

医療分野

遺伝子疾患やがん・感染症の治療にもゲノム編集は必要不可欠な技術となってきています。2016年からは、海外で臨床試験の登録が急増しています。
ゲノム編集を利用した遺伝子治療には、ベクターなどを利用してゲノム編集ツールを体内に直接投与する in vivo (生体内)治療と、患者から採取した細胞の原因遺伝子を正常な遺伝子に改変してから患者に戻すex vivo (生体外)治療の2種類があります。これらの遺伝子治療では、従来の遺伝子治療と比較して、不要な遺伝子を破壊できる、より安全な場所に遺伝子を組み込むことができるなどの優位性が有ります。これまでに、「サラセミア」・「トランスサイレチン型アミロイドーシス」・「デュシェンヌ型筋ジストロフィー」などの研究や治療方法の開発が進められています。

このように、ゲノム編集は食物生産や創薬、医療などの研究開発を促進するツールとして欠かせない技術となっています。 リプロセルでは、iPS細胞の分野を中心として、ゲノム編集サービスを提供しており、多様な研究をサポートしています。(当社サイト参照:iPS細胞ゲノム編集受託サービス(CRISPR/Cas9))