Vol.1. 2021.08

創薬研究・再生医療のためのiPS細胞技術

iPS細胞とは?

iPS細胞(Induced Pluripotent Stem cells)とは、様々な細胞に変化できる細胞で、2006年に報告されました。受精卵は、皮膚細胞や肝臓の細胞などすべての細胞に変化(分化)していきますが、基本的に変化(分化)した細胞は元の状態に戻ることは出来ません。この前提を覆したのがiPS細胞です。2012年にノーベル賞を受賞したこの技術は近年色々な分野への応用が期待されています。

 iPS細胞の作製

ヒトのiPS細胞は、皮膚、尿、血液などに含まれる細胞に山中因子と呼ばれる遺伝子を発現させることで作製されます。遺伝子の発現方法にはウイルスやプラスミド、mRNAを利用したものがあり、それぞれ特徴があります。とくにmRNAを用いたiPS細胞の作製方法がiPS細胞の持つ染色体への影響が理論上最も少ないと考えられます。染色体への影響が小さいことが、iPS細胞の利用には望まれています。 iPS細胞は、増殖が速く、大量に培養する方法が確立されており、様々な細胞に変化できます。これらの特徴により、本来増殖しない組織の細胞を十分量得ることができるので、医療への応用が期待されています。

 

 分化誘導

iPS細胞はそのままでは機能する細胞へと変化しないので、応用する場合、目的に応じた特定の細胞を作り出す必要があります。このプロセスを分化、または分化誘導と呼びます。iPS細胞を特定の条件で処理、培養することで様々な細胞へ分化誘導できることが近年報告されています。分化誘導は変化させたい細胞ごとに方法論が違い、それを確立することは難しい技術ですが一度確立されればどんな人から樹立したiPS細胞も同様に特定の細胞に分化させることが出来ます。

 
iPS細胞の作製イメージ
iPS細胞は様々な臓器の細胞に変化する
 

 応用

このようなiPS細胞は、再生医療への利用が進められるとともに、創薬研究における研究開発のツールとして有用です。次回から、機能細胞への分化と使用方法の紹介をしていきます。