Vol.2. 2021.11
創薬研究・再生医療のためのiPS細胞技術
iPS細胞由来感覚神経細胞(1)
iPS細胞は様々な細胞に分化することができるため、次世代の医療ツールとして期待されています。再生医療用途だけでなく、薬の開発や基礎研究にも使用できる可能性があります。特に生体から得ることが難しい細胞をiPS細胞から作製することが出来れば、動物実験の代替や研究の加速につながります。そのような細胞種の1つが神経細胞であり、感覚神経細胞に関する研究開発が進められています。
感覚神経細胞(Sensory Neuron)
神経系の分野は、ヒトからの神経細胞を入手することが難しく、まだ効果の高い治療薬が見つかっていない疾患があることから、iPS細胞を用いた研究が進んでいる分野の1つです。神経系は、脳と脊髄からなる中枢神経系と感覚神経と運動神経を含む末梢神経系に分けられます。中枢神経系は全身の受容器から届く刺激を受け取り、それらを処理して末端に指令を出します。感覚神経系は、接触など刺激を脳に伝える神経細胞で、末端から中枢(脳)に刺激を伝達し、運動神経は中枢(脳)からの刺激を末端に伝えます。
感覚神経細胞は、抗がん剤による末梢神経障害やアトピーでの痒みに関与しており、創薬研究と化粧品開発の領域で利用されています。これらの細胞を利用することで種差による反応性の違いが解消でき、さらに実験動物の使用削減にも貢献できます。ヒトiPS細胞由来の感覚神経細胞を用いて、各種企業において、新たな薬や化粧品の開発のための研究が進められています。
iPS細胞から感覚神経細胞を作る
感覚神経細胞を含め、ヒトの神経細胞を大量に入手して研究開発に使用することは、提供元を確保することや倫理的な観点から非常に困難です。その点においてヒトiPS細胞から作られる各種の細胞は有用なツールとなります。iPS細胞から様々な細胞種を作製するときは、ヒトの発生過程を一部模倣して培養していきます。そのプロセスを分化誘導といい、分化誘導後の細胞が目的の細胞になっているかは、特徴的な形態を観察することや、マーカータンパク質の発現を調べることでわかります。感覚神経細胞では、神経細胞のマーカーであるTUBB3、末梢神経のマーカーであるPeripherin、感覚神経細胞のマーカーであるBrn3aが用いられます。下図はリプロセルが作成したヒトiPS細胞由来感覚神経細胞であり、細胞は特徴的な形態となっており(左図)、感覚神経細胞のマーカー類が発現しています(右図)。
丸い膨らんだ形になります。 画像の細胞はすべて感覚神経です。 (42日培養) |
分化誘導した細胞は、 感覚神経マーカーで染色されます。 |
応用
iPS細胞から分化誘導された分化細胞は、形態やマーカーの発現の確認だけでなく、機能的な評価が実施されます。次回はヒトiPS細胞由来感覚神経細胞が刺激によってどのように反応するか、どのような使い方ができるかを紹介します。
→Vol.3に続く