進行性子宮頸がんの治療法として注目されるTIL療法。その最前線で研究を続ける岩田卓先生(慶応義塾大学医学部産婦人科学教室)に、TIL療法の概要や他の治療法との違い、効果とメリット、そして現在進行中の臨床試験について詳しくお話を伺いました。TIL療法の可能性と未来を探ります。

この記事は、「子宮頸がんに新たな希望を!~岩田先生が語るTIL療法~【前編】」の続きとなります。 まだ前編をお読みでない方はこちらからご確認ください。

 
 

リプロセル:
「では、ここからは、現在実施されている子宮頸がんに対するTIL療法の臨床試験についてお伺いします。まず、どのような試験か詳しく教えていただけますか?」

 

岩田先生:
「はい。現在、慶應義塾大学病院において、子宮頸がん患者さんを対象に、TIL療法の臨床試験を実施しています。全部で10症例を予定しており、この試験の目的は、TIL療法の安全性と有効性を確認し、将来的には保険適用に向けた治験へと導くための基礎データを蓄積することにあります。」

リプロセル:

「臨床試験にはどのような方が参加できるのでしょうか?また、どうしたら参加できるのか、参加する方法も教えてください。」

 

岩田先生:
「まず、対象は、子宮頸がんが再発し、標準治療―シスプラチンまたはカルボプラチンを含む化学療法―を受けたにもかかわらず病変が残っている患者さんです。さらに、腫瘍が小規模な手術で切除できる位置にあることが条件です。年齢が65歳以下で、日常生活に支障がない程度の体力があることも重要な基準となります。
参加の流れとしては、まず、患者さんに慶應義塾大学病院のセカンドオピニオンを申し込んでいただきます。そこで主治医の紹介状を拝見し、TIL療法の対象となりうるかを判断します。TIL療法が適応となりそうな患者さんには、セカンドオピニオン外来で私自身が説明の上、患者さんが希望されればTIL療法に進みます。残念ながら適応でない場合は、その理由とともにその旨をお伝えしますが、この場合はセカンドオピニオンの料金はいただきません。
TIL療法が決定した患者さんは、まず初回の入院で腫瘍切除手術を受け、そこからTILの原料となる細胞を採取します。その後、約8週間かけて体外でTILを増殖させます。投与の2週間前に再度入院して、抗がん剤による骨髄抑制処置を行います。これは、体内の白血球をほぼゼロに近い状態にし、増殖させたTILがしっかりと定着できるようにするための大切な工程です。その後、TILを投与し、投与後は約10日目あたりで体調が回復すれば退院となります。そして、5週間目および10週間目に効果判定を実施し、治療の成果を評価します。治療中は、病状や副作用の状況に応じて、適切に対応できるよう体制を整えています。」

リプロセル:
「副作用やリスクについても詳しくお伺いしたいのですが、どのような点に注意が必要でしょうか?」

 

岩田先生:
「はい。TILの製剤自体は患者さん自身の細胞を用いるため、副作用は少ないとされています。ただ、治療の過程でいくつかの副作用が発生する可能性があります。まず、TIL投与前に行う骨髄抑制処置ですが、これには抗がん剤を用いるため、一時的な吐き気や感染リスク、貧血といった副作用が出ることがあります。
また、TIL投与後には、増殖させたTILの効果を最大限に引き出すために、IL-2というサイトカインの注射を行います。このIL-2の注射は、6時間ごとに最大5回投与され、これにより一時的に熱が出たり、震えや肺の機能が一時的に低下することがあります。
しかし、これらの副作用は治療が終了すれば改善し、長期にわたって続くものではありません。海外での多数の臨床試験のデータでも、TIL療法そのものが直接の原因で死亡した例は報告されていないため、安全な治療法として認識されています。

一方で、TIL療法の効果が得られない患者さんもいるということも心に留めておいていただきたいと思います。奏効率(病変が消失または縮小する率)はおおむね3割から4割、腫瘍制御率(腫瘍の増大が停止する率)は6割から7割と期待されますが、逆に言うとその他の方には効果が低いということになります。進行がんの患者さんを対象としていますので、患者さんご自身だけでなく、ご家族にもその状況を理解して患者さんに寄り添い、支えていただきたいと思います。」

リプロセル:
「なるほど。TIL療法は現在、日本では”先進医療B”として実施されていると聞きましたが、費用面や保険の適用についても詳しく教えていただけますか?」

 

岩田先生:
「はい。TIL療法は、現時点では日本の保険適用外の治療法で、”先進医療B”という制度の下で実施されています。この制度では、TIL療法自体の製剤作製や腫瘍切除手術など特定の治療行為に関しては自費となりますが、そのほかは通常の保険診療が適応されます。料金は自費が約600万円ですが、現在、多くの民間のがん保険には先進医療特約が付帯されている場合が多く、その特約に加入されていれば自費分がカバーされます。そのため、実際に治療を検討される際にはご自身が加入されている保険内容を確認していただくことをお勧めしています。」

リプロセル:
「実際に治療を受けるとなると、患者さん側の負担や準備も多いかと思いますが、地方にお住まいの方の場合、どのように治療に参加することが可能でしょうか?」

 

岩田先生:
「はい。TIL療法は慶應義塾大学病院のみで実施していますが、地方にお住まいの患者さんも参加いただけますので、まず、主治医の先生からの紹介状を添えて、慶應義塾大学病院のセカンドオピニオンにお申し込みください。セカンドオピニオンは、オンラインでも対応可能ですので、遠方の方や体力が低下している患者さんも対応可能です。もともと全国の患者さんを対象としていますので、遠方の患者さんには、地元の主治医の先生と密に連携し、しっかりとしたサポート体制を整えたうえで治療を行っています。」

リプロセル:
「地方の患者さんでも安心して治療が受けられるということですね。最後に、治療に悩む患者さんやそのご家族に向けた、岩田先生からのメッセージをお願いできますか?」

 

岩田先生:
「はい。再発した子宮頸がんは、初回の標準治療で効果が見られても、その後の治療選択肢が非常に限られており、有効な治療法がないのが現状です。
 TIL療法は、患者さん自身の免疫細胞の能力を最大限に引き出し、がんを攻撃する新しい治療法です。実際、子宮頸がんにおいて2-3割の患者さんで完全奏効を達成し、再発なく経過すると報告されています。もし標準治療で効果が得られなかった場合、あるいは選択肢が限られていると感じられる場合は、ぜひTIL療法という新たな治療の可能性をご検討いただければと思います。
患者さんご自身やご家族が納得できる治療を選択し、前向きに希望を持って治療に取り組んでいただけるよう、私たち医療従事者も全力でサポートさせていただきます。」

リプロセル:
「本日は、TIL療法の仕組みや臨床試験の流れ、副作用、費用面の仕組みなど、非常に詳しくお話しいただき、ありがとうございました。患者さんやそのご家族にとって、治療の選択肢が広がる大変貴重なお話となりました。」

 

岩田先生:
「こちらこそ、ありがとうございます。皆さんが少しでも前向きな希望を持って、治療に臨めるよう、今後も最新の情報を提供していければと思います。どうぞよろしくお願いいたします。」

 
 

まとめ

今回のインタビューでは、慶應義塾大学病院産婦人科の岩田先生に、TIL療法とはどのような治療なのかという点から具体的な治験の流れ、参加条件、副作用、費用面の仕組みまで、詳細にわたってご説明いただきました。
子宮頸がんは、再発や進行後の治療法が限られている難しい病気ですが、TIL療法は新たな治療の選択肢として、多くの患者さんに希望をもたらす可能性があります。 もし標準治療で十分な効果が得られなかった場合や、今後の治療選択について不安を感じられる場合は、臨床試験へのご参加を検討していただければと思います。

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