腫瘍浸潤リンパ球輸注療法(TIL療法)は、患者自身のがん組織に含まれる腫瘍浸潤リンパ球(TIL:Tumor Infiltrating Lymphocyte)を採取し、体外で大量に培養した後、再び患者に戻す養子免疫療法の一種です。この療法は、体内の免疫システムを活性化し、がん細胞に対する攻撃力を強化することを目指しています。

TIL療法は1980年代から主に進行悪性黒色腫に対して実施され、世界中で多くの成功例が報告されています。具体的には、悪性黒色腫におけるTIL療法の奏効率は約70%、病変が完全に消失する割合(完全奏効率)は約20%とされており、特に完全奏効を達成した患者の多くは再発のリスクが低いことが知られています。

 

2024年2月には、転移性メラノーマを対象としたTIL療法が米国FDAにより承認され、固形がんを対象とした初の免疫細胞療法として広く注目を集めています。この治療の薬価は515,000ドルとなっており、高度な培養技術を要するため、実施可能な施設は世界で約10カ所に限られています。このような特異性から、TIL療法は非常に専門的な治療法であるといえます。

表. TILによる固形がんに対する研究と成果1)2)

  1. Zhao Y, et al. Tumor Infiltrating Lymphocyte (TIL) Therapy for Solid Tumor Treatment: Progressions and Challenges. Cancers (Basel). 2022 Aug 27;14(17):4160. PMID: 36077696.
  2. Dudley ME, et al. Adoptive cell therapy for patients with metastatic melanoma: evaluation of intensive myeloablative chemoradiation preparative regimens. J Clin Oncol. 2008 Nov 10;26(32):5233-9. PMID: 18809613

作用機序

患者がん組織に含まれる腫瘍を認識し浸潤したリンパ球、すなわち、がん特異的傷害能力を有するリンパ球を体外で急速拡大培養し投与します。投与後のTILは体内のがんを認識し強力に殺傷します。

適応疾患

子宮頸がん

子宮頸がんは、子宮頸部と呼ばれる子宮の出口付近から発生するがんであり、ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染により罹患することの多いがんです。

 

以前は発症のピークが40~50代でしたが、最近は20~30歳代の若い女性に増えてきており、30歳代後半がピークとなっています。国内では、毎年約1万人の女性が子宮頸がんに罹患し、約3,000人が亡くなっています。また2000年以降、患者数も死亡率も増加しています。

 

現在の治療方法は手術療法、放射線療法、化学療法(抗がん剤)の3つを単独、もしくは組み合わせて行います。病気の進行気(ステージ)と、患者さんの年齢や治療後の妊娠希望の有無、基礎疾患の有無などにより決定されます3)

 

進行・再発子宮頸癌に対する根治療法は確立されておらず、効果的な新規治療の開発が望まれています。

  1. 公益社団法人 日本産婦人科学会HPよりhttps://www.jsog.or.jp/citizen/5713/

開発状況

2024年9月より進行子宮頸癌を対象とした腫瘍浸潤リンパ球輸注療法(TIL療法)」の先進医療を開始しております。当社は2023年6月、慶應義塾大学医学部産婦人科学教室との間で、進行子宮頸がんに対する先進医療Bに関連する共同研究契約を締結しました。当社では、子宮頸がんを対象としたTIL療法を3つ目のパイプラインとし、事業化を進めております。

 

本臨床研究の情報はJRCTに掲載されています(jRCTc031200283)。

 

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