iPS細胞樹立受託サービス(RNAリプログラミング)



当社では、導入因子のゲノムへのインテグレーションが起こらず安全性が高いことが知られているRNA法を用いてiPS細胞を樹立いたします。 患者様の尿、線維芽細胞をお送りいただければ、お手元の患者様由来のiPS細胞が手に入ります。また、リプロセルグループにて、ご要望の患者様から検体を採取することが可能であり、研究用途に合わせた多様な疾患患者由来のiPS細胞を入手することができます。 加えて当社では、ゲノム編集サービスや目的の細胞への分化誘導サービスも承っていますので、ワンストップで、必要な細胞をお届けできます。


樹立サービス概要

品番
納品物
検定項目
納期・価格
RCSE001 3クローン 3バイアル(各クローン)
・細胞の形態 ・細胞の増殖 ・未分化マーカーの発現(免疫染色)<v/p>
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※上記の内容は基本条件となります。お客様のご要望に応じて、対応可能でございますので、お気軽にお問い合わせください。 ※当社はiPSアカデミアジャパン株式会社より、商用ライセンスを取得しております。

RNAリプログラミングキットの使用報告

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RNAリプログラミング特徴と優位性

(1) iPS細胞の樹立(RNAリプログラミング)


iPS細胞は2006年にマウスで、2007年にヒトで初めて樹立された(1、2、3、4)。当時は4つの因子(Oct4、Sox2、Klf4、c-Myc; OSKM)をレトロウイルスベクターを用いて線維芽細胞に遺伝子導入し初期化を誘導していたが、iPS細胞の樹立方法(リプログラミング方法)は改良され続けている。 特に、外来遺伝子の再活性化により腫瘍が発生するリスクが議論されて以来(5)、レトロウイルスベクターやレンチウイルスベクターなど導入因子を染色体に組み込むウイルスベクターの使用が敬遠されてきた。これらの点を踏まえて、iPS細胞を安全性の観点から評価すると、1)導入因子の残存性が小さいこと2)染色体の安定性が高いことが必要となる(6)。加えて、安定的な製造が必要となる産業化のの観点からは、3)クローン間差が小さいことも重要である。実際の再生医療用途で使用されたiPS細胞は複数のクローンの中から多くの選別を経て、臨床試験に使用可能なクローンが選ばれた(7)。 現在使用されている樹立方法を比較すると、エピゾーマルベクターでは、導入因子としてDNAを用いることから染色体への取り込みの可能性を完全に否定することは難しいと報告されている(8)。また、センダイウイルスベクターを用いたiPS細胞の樹立においては、ゲノムへの取り込みの危険性は回避されているが、導入因子の長期残存性が報告されている(9)。 このような状況の中で、2010年にCell Stem Cell誌にてRNAを用いたリプログラミング方法が報告された(10、11)。RNAリプログラミングでは、導入因子をRNAとして細胞に導入し、細胞質に留まったRNAから各種の初期化因子が翻訳されて細胞が初期化される。さらに、RNAは細胞内で速やかに分解される(図1)ことから、導入因子の残存性を気にすることなく、染色体の安定性が高く、クローン間差が小さいRNA-iPS細胞は、今後の再生医療利用および産業利用に最適なiPS細胞である。

図1.RNAによるiPS細胞の樹立

(2) RNAリプログラミング法の変遷


RNAリプログラミング法は、2012年に発売を開始した第一世代の製品から、2015年には第二世代に、そして2016年には第三世代の技術へと進歩してきている(図2)。

図2.RNAリプログラミング法の変遷
第一世代のRNAリプログラミング法においては、初期化因子の導入の際にRNAを用いることで、残存性が低く、ゲノムの安定性が高いiPS細胞の作製が可能となった。しかしながら、遺伝子導入の作業が多いこと、樹立効率が低いこと、樹立可能な細胞種として線維芽細胞だけに限られることが課題であった。 第二世代のRNAリプログラミング法では、自己複製が可能なRNAを用いることで、作業効率を向上することが可能となり、加えて血液サンプルからの樹立プロトコールも確立された。 最新の第三世代RNAリプログラミング法では、RNAをドナー細胞に導入した際に引き起こされるインターフェロンの反応を抑えることにより、iPS細胞の樹立効率を高めることに成功した。さらに、線維芽細胞・血液よりも格段に侵襲性が低い尿からの樹立プロトコールを確立した(図3)。尿からiPS細胞を樹立できるようになったことから、これまでは皮膚および血液の採取が難しかった患者や子供からiPS細胞を作製することが容易になった。 RNA-iPS細胞はテラトーマ形成および in vitro での分化誘導による三胚葉への分化能も確認できており(図4)、心筋細胞、肝細胞、神経細胞への分化実績も十分にある。特に、従来法で作成されたiPS細胞よりも網膜系の細胞への分化が良好であることが報告されている(12)。

図3.皮膚、血液、尿から樹立されたiPS細胞

図4.三胚葉への分化能(左:テラトーマ形成、右:in vitro 分化)

(3)造血前駆細胞への分化誘導


今後の再生医療において、iPS細胞から分化誘導される血球細胞に大きな期待が寄せられています。様々な由来のiPS細胞から血球系への細胞への分化誘導能を確認することを目的として、血球細胞由来細胞ではない異なる2株から造血前駆細胞への分化誘導を試みました。RNA法を用いて樹立した血液中の血管内皮前駆細胞(Endothelial Progenitor Cells: EPC)由来のiPS細胞(RPChiPS7713G1)、同様にRNA法を用いて樹立した線維芽細胞由来のiPS細胞(B3-3A)を使用しました。由来の細胞種によらず、誘導開始12日後に造血幹細胞様の綺麗な球形を保った細胞を誘導する事に成功しました(図5)。

図5.iPS細胞から分化誘導された造血前駆細胞(誘導開始後12日)
これらの分化細胞に対して造血前駆細胞のマーカーとして知られているCD34とCD43の発現をFACSにより解析しました。どちらの株由来の分化細胞においても高純度のCD34陽性・CD43陽性細胞が得られ、造血前駆細胞への分化能が確認できました(図6、RPChiPS7713G1:84.3%、 B3-3A:93.0%)。 非血球細胞由来の細胞から樹立されたiPS細胞株を活用して、血球細胞へ分化誘導できることを示されました。

図6.造血前駆細胞マーカー(CD34陽性・CD43陽性細胞)の発現解析(誘導開始後12日)

(4) RNAリプログラミング法で樹立されたiPS細胞の優位性


・導入因子の残存性が低い RNA-iPS細胞は、導入因子にRNAを用いており、RNAは細胞内で速やかに分解されることからiPS細胞内での残存性を気にすることなく使用可能である。iPS細胞を樹立後、2~3継代培養したiPS細胞では、導入されたRNAは検出限界以下になっていた(図7)。

図7.導入されたRNAの消失
・染色体の安定性が高い iPS細胞が開発された当初のウイルスベクターにおいては、導入遺伝子がゲノムに組み込まれるため、予期せぬ変異や腫瘍形成等が大きな課題であった。導入因子にDNAを使用している方法では、ゲノムへのインテグレーションの危険性を拭いきれず、iPS細胞を使用する前に検査することが必要となる。それに対してRNAリプログラミングでは、ゲノムへのインテグレーションを気にすることなく、樹立されたiPS細胞を使用することができる。Schlaegerらの報告によると、RNA-iPS細胞では染色体異数性の出現頻度が、レトロウイルスベクター、センダイウイルスベクター、エピソーマルベクターを用いて樹立されたiPS細胞よりも顕著に低いことが報告されている(13)。 一般的に,iPS細胞樹立時や拡大培養時に核型の異常や遺伝子多型(CNV: Copy Number Variation)、すなわちゲノムの一部に重複や欠損が生じる可能性があることが報告されており、これらは腫瘍化のリスクがあることから再生医療の実現に対して大きな障壁となる。 弊社の実績によると、レトロウイルスベクターを用いて樹立されたiPS細胞では、3検体全てにCNVが生じたのに対して、RNA-iPS細胞では、8クローン中6クローンではCNVが生じていなかった(表1)。CNVは樹立時だけでなく、細胞培養の過程でも起こりうるが、これらの結果から、従来法と比較してRNAリプログラミングを用いることにより、ゲノム損傷のないヒトiPS細胞を容易に樹立することが可能となる。

表1.RNAで樹立されたiPS細胞のCNV
・小さいクローン間差 一般的に、ヒトiPS細胞株は株間の品質に差があり、同一ドナー由来のiPS細胞株においても使用にあたり、適切なクローンを選び使用されている(7)。クローン間差に関して、RNA-iPS細胞はセンダイウイルスで樹立されたiPS細胞よりも、遺伝子発現のばらつきが小さいことが報告されている(14)。さらに、RNA-iPS細胞は、遺伝子発現において、標準的な多能性幹細胞として考えられるES細胞に近いパターンを示すことが報告されている(10)。分化指向性においても、従来法で作成されたiPS細胞では、肝細胞、心筋細胞、神経細胞への分化傾向にクローン間差が見られたが、RNA-iPS細胞においては、肝細胞、心筋細胞、神経細胞への分化指向性にも大きな差が無いことが示されている(図8)。これらの結果は、RNA-iPS細胞を利用することで、同一のプロトコールでクローン間差が少なく分化細胞を作製することが可能であり、貴重な検体由来のiPS細胞の有効活用や商業利用において重要となる製造の安定性の確保が容易であることを表している。

図8.クローン間差が小さいiPS細胞

(5) 最後に


ヒトiPS細胞が報告されてから10年以上が経過し樹立方法に関して、より良い方法が開発されてきた。特に、RNAリプログラミング法は、当初より優れた方法であると期待されており、現在は第三世代まで発展してきている。iPS細胞の本格的な商業利用や再生医療への応用が期待されている中で、使用されるiPS細胞の重要となる特徴が定められつつある。まず、注目すべきポイントは安全性(導入因子の残存性および染色体の安定性)である。これまでに述べてきたようにRNA-iPS細胞は、この点に関して大きな優位性を有している。加えて、商業化において重要なポイントとなる製造および最終製品の安定供給においても、RNA-iPS細胞を使用するメリットは大きい。RNA-iPS細胞は尿からの樹立が可能となったこともあり、今後の使用範囲が大きく広がることが期待されている。

参考文献

  1. Takahashi K, Yamanaka S. Induction of pluripotent stem cells from mouse embryonic and adult fibroblast cultures by defined factors. Cell. 2006 126(4):663-76.
  2. Wernig M, Meissner A, Foreman R, Brambrink T, Ku M, Hochedlinger K, Bernstein B.E, Jaenisch R. In vitro reprogramming of fibroblasts into a pluripotent ES-cell-like state. Nature. 2007 448(7151):318-24.
  3. Takhashi K, Tanabe K, Ohnuki M, Narita M, Ichisaka T, Tomoda K, Yamanaka S. Induction of pluripotent stem cells from adult human fibroblasts by defined factors. Cell. 2007 131(5):861-72.
  4. Yu, J, Vodyanik M.A, Smuga-Otto K, Antosiewicz-Bourget J, Frane J.L, Tian S, Nie J, Jonsdottir G.A, Ruotti V, Stewart R, Slukvin I.I, Thomson J.A. Induced pluripotent stem cell lines derived from human somatic cells. Science, 2007 318(5858):1917-20.
  5. Okita K, Ichisaka T, Yamanaka S. Generation of germline-competent induced pluripotent stem cells. Nature. 2007 Jul 19;448(7151):313-7.
  6. 厚生労働省医政局研究開発振興課 「特定認定再生医療等委員会におけるヒト多能性幹細胞を用いる再生医療等提供計画の造腫瘍性評価の審査のポイント」2016
  7. Mandai M, Watanabe A, Kurimoto Y, Hirami Y, Morinaga C, Daimon T, Fujihara M, Akimaru H, Sakai N, Shibata Y, Terada M, Nomiya Y, Tanishima S, Nakamura M, Kamao H, Sugita S, Onishi A, Ito T, Fujita K, Kawamata S, Go MJ, Shinohara C, Hata KI, Sawada M, Yamamoto M, Ohta S, Ohara Y, Yoshida K, Kuwahara J, Kitano Y, Amano N, Umekage M, Kitaoka F, Tanaka A, Okada C, Takasu N, Ogawa S, Yamanaka S, Takahashi M. Autologous Induced Stem-Cell-Derived Retinal Cells for Macular Degeneration. N Engl J Med. 2017 Mar 16;376(11):1038-1046.
  8. Okita K, Matsumura Y, Sato Y, Okada A, Morizane A, Okamoto S, Hong H, Nakagawa M, Tanabe K, Tezuka K, Shibata T, Kunisada T, Takahashi M, Takahashi J, Saji H, Yamanaka S. A more efficient method to generate integration-free human iPS cells. Nat Methods. 2011 May;8(5):409-12.
  9. Agu CA, Soares FA, Alderton A, Patel M, Ansari R, Patel S, Forrest S, Yang F, Lineham J, Vallier L, Kirton CM. Successful Generation of Human Induced Pluripotent Stem Cell Lines from Blood Samples Held at Room Temperature for up to 48 hr. Stem Cell Reports. 20115 Oct 13;5(4):660-71.
  10. Warren, L., Manos, P.D., Ahfeldt, T., Loh, Y.H., Li, H., Lau, F., Ebina, W., Mandal, P.K., Smith, Z.D., Meissner, A., Daley, D.Q., Brack, A.S., Collins, J.J., Cowan, C., Schlaeger, T.M., Rossi, D.J. Highly Efficient Reprogramming to Pluripotency and Directed Differentiation of Human Cells with Synthetic Modified mRNA. Cell Stem Cell. 2010 7:618.
  11. Yakubov, E., Rechavi, G., Rozenblatt, S., Givol, D. Reprogramming of Human Fibroblasts to Pluripotent Stem Cells using mRNA of Four Transcription Factors. Biochem Biophys Res Commun. 2010 394:189.
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