3次元培養器材(Alvetex)を使用した皮膚組織モデルの有用性

現在の細胞を用いた研究の多くは、細胞を平面(2次元)に蒔いて培養する2次元培養が使用されています。しかしながら、人間を含めた多くの生物は立体(3次元)的な構造をしており、体内にある組織(例えば心臓や肺など)も3次元構造となっています。近年の研究では、実際の生体組織に近いものを再現するために、細胞を立体的に組み合わせて培養する3次元培養が盛んに行われています。優れた3次元培養システムは、動物実験を減らす動きが活発な現代において需要が高まっています。
3次元培養で使うさまざまな足場(培養する組織の土台・骨組み)が提供されている中、リプロセルではAlvetexという足場を提供しています。Alvetexは組織培養でよく使われるポリスチレン製で、スポンジのような構造(多孔構造)を持つのが特徴です。多孔質である特徴によって、3次元培養を簡単に行うことができます。
REPROCELL EuropeのCSOであるStefan Przyborski教授の研究グループは、このAlvetexを足場として用いて、より高度な皮膚組織モデルを作製しました。
今回はその研究論文「Development of mammalian neurosensory full-thickness skin equivalent and its application to screen sensitizing stimuli」をご紹介します。

研究概要

皮膚は表面を覆う表皮層と、その下の真皮層に分かれています。表皮層は体外からの異物の侵入を防ぐ役割を持ち、ケラチンタンパクを多く含む平らな細胞(ケラチノサイト)が、何層にも重なって構成されています。真皮層は肌の弾力作りや水分保持を担い、コラーゲンやヒアルロン酸をはじめとした線維や、それらの線維を作る細胞(線維芽細胞)などで構成されています。加えて実際の皮膚には、痛みや熱などの刺激を感じ取る感覚神経が真皮層に通っているため、神経細胞も皮膚組織に含まれています。
本研究ではAlvetexと線維芽細胞、ケラチノサイト、感覚神経細胞を組み合わせて3次元培養を行うことで、神経を含んだ本物に近い皮膚組織を再現し、その皮膚組織の刺激に対する反応性を評価しました。
もう少し詳しい説明をすると、表皮層としてヒト新生児由来ケラチノサイト、真皮層としてヒト新生児真皮層由来線維芽細胞とAlvetex、感覚神経細胞としてマウスの神経芽腫細胞とラットの脊髄後根神経節細胞を融合したF11細胞株を使っています。研究グループは、線維芽細胞(Alvetex内で培養)、感覚神経細胞、ケラチノサイトの順番に培養して上に重ねていき、30日以上をかけて皮膚組織モデルを作製しました。
この皮膚モデルに、カプサイシンまたはオイゲノールを加えて、神経細胞から放出されるサブスタンスP(SP)とCGRP、鎮痛物質βエンドルフィン、そしてSP放出によって増加すると予想される4種の炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-8、IL-1Ra、GM-CSF)の量を測定し、刺激への応答性を評価しました。
その結果、カプサイシン添加によって培養液中のSPとCGRPの有意な増加、βエンドルフィンの有意な減少、TNF-αの有意な増加が見られ、他の炎症性サイトカインも増加傾向が見られました。
以上の結果より、Alvetexを足場として作成した皮膚組織は刺激への応答性を持ち、皮膚モデルとして有用であると結論付けられました。

紹介論文

タイトル:Development of mammalian neurosensory full-thickness skin equivalent and its application to screen sensitizing stimuli
掲載雑誌:Bioengineering & Translational Medicine, e10484, 2023
著者:Freer M, Darling N, Goncalves K, Mills JK and Przyborski S.
URL: https://aiche.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/btm2.10484

■当社関連製品・サービス

3次元組織モデル(Alvetex)(リプロセル海外サイト): https://www.reprocell.com/drug-efficacy-safety-adme/platform-technologies/alvetex-3d-tissue-models

ヒト組織アッセイ: https://reprocell.co.jp/assay

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