再生医療の発展に向けて再生する生物から考える

近年、iPS細胞の目覚ましい発展により、再生医療分野の研究が進んでいます。iPS細胞を用いた再生医療では、人間の再生能力を補う形で行われています。ヒトの体細胞から作製されたiPS細胞を必要な細胞へと分化させ、これらのiPS細胞由来分化細胞が体内に移植されています。しかし、生物の中には、自らの臓器や組織を自然に再生する生物も存在しています。今回は、このような自然再生する生物について解説します。

プラナリア

プラナリアは、川などに生息する体長わずか1〜3cmの扁形生物です。非常に小さな生き物であるにもかかわらず、再生研究の分野で注目が集まっています。それは、プラナリアが高い再生能を有しているからです。プラナリアは、生息する環境によって、無性生殖と有性生殖を使い分けていて、無性生殖では体の分裂・再生が行われます。この再生能は、自然に起こる無性生殖のときだけでなく、人為的にプラナリアを切断しても発揮されます。例えば、1匹のプラナリアを5個の断片に切断すると、5個すべての断片で再生が起こり、5匹の正常なプラナリアになります。
プラナリアの再生に関しては、100年以上も前から、研究が進められており、様々な知見が増えてきています。プラナリアの全身に幹細胞が存在していて、その細胞が体内の前と後を認識して、その情報に従い、必要な細胞(体の前方には頭、後方には尾など)へと分化することで、再生が起こります。
全身に未分化な幹細胞が存在し、幹細胞から臓器や身体が作られるメカニズムが明らかになった今、失われた身体の一部や機能不全に陥った組織や臓器を再生して機能を回復させる再生医療の鍵を握る、小さなプラナリアの研究が進められています。プラナリアの研究は、分子レベルや研究形態を変えながら、新たな局面を迎えています。

ヤマトヒメミミズ

ミミズは、環形動物の一種で、その他の環形動物には、ゴカイやヒルが含まれます。福島県の東北農業試験場で発見されたヤマトヒメミミズも非常に高い再生能力があります。ヤマトヒメミミズは、体長約1 cmと一般的なミミズよりは小さく、プラナリアと同様に、無性生殖と有性生殖を使い分けています。ヤマトヒメミミズも無性生殖のときに、成熟した個体を10個程度の断片に分離して、その一つ一つが完全な個体に成長します、プラナリアと比較してヤマトヒメミミズはより複雑な体の構造をしているので、生物再生の仕組みに関して新たな発見が期待できますが、まだ明らかでない点が多く残されています。また、ヤマトヒメミミズは、クローンな個体が多く得られることから、遺伝学的な研究での優位性も高い生物です。

イモリ

イモリは陸上でも水中でも生活できる両生類で、手足や尻尾だけでなく、脳や心臓の一部、眼のレンズ(水晶体)など、体の多くの部位を再生することができます。イモリの体で再生が起こる場合は、周辺の細胞が脱分化し、その脱分化した細胞が再生に必要な細胞へと分化していきます。脱分化とは、成熟した細胞が未熟(未分化)な細胞に戻ることで、脱分化した細胞は、元の細胞とは異なる種類の細胞に変化(分化)することができます。ヒトiPS細胞は、ヒトの体から取り出した体細胞を人為的に脱分化して作られます。このような脱分化の仕組みを知ることで、再生医療への応用が期待されています。

まとめ

今回紹介した動物のように、自らの体に再生能がある動物の研究が進み、遺伝子レベルで比べることができるようになると、人間における再生医療のヒントが得られるかもしれません。

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