絶滅危惧種の保護・保全に向けたiPS細胞研究の最新情報

2006年に京都大学の山中伸弥教授らが世界で初めてiPS細胞の作製に成功し、2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞したことで、「iPS細胞」という言葉が一般化しました。iPS細胞を利用した治験も始まっていて、再生医療への応用が期待されています。しかし、最近はiPS細胞が私たち人間のものだけではなく、動物界にも素晴らしい影響を与えているので、その一部を紹介します。

絶滅が危惧されている動物の保護・繁殖・研究

iPS細胞は、絶滅が危惧されている動物の保護や研究材料として、利用されています。2022年12月、大阪大学の研究グループが、絶滅危惧種であるキタシロサイのiPS細胞から、始原生殖細胞様細胞の作製に成功したと報告がありました。他の絶滅が危惧されている動物においても、iPS細胞の作製と利用が進んでいます。

キタシロサイ

キタシロサイは、現在メスが2頭しかいない絶滅危惧動物の一種で、オスの個体が存在しないため、自然交配で数を増やすことができません。野生動物は絶滅し、この2頭のキタシロサイは飼育下で生存しています。上述の大阪大学の研究グループは、キタシロサイの皮膚からiPS細胞を作製し、さらに始原生殖細胞様細胞を作製しました。始原生殖細胞は精子や卵子のもとになる細胞なので、今回の成果は、iPS細胞から精子や卵子を作ることによる絶滅危惧種の保全の第一歩と考えられています。

グレビーシマウマ

ほかにも、京都大学の研究グループからグレビーシマウマのiPS細胞樹立の報告もありました。この研究では、動物園で飼われていたグレビーシマウマから皮膚を採取し、iPS細胞を作製しています。グレビーシマウマも絶滅危惧種に指定されており、種の保全への利用が期待されていますが、加えて基礎研究での利用も考えられています。野生動物においては、実験材料となる細胞や組織の入手が困難ですが、iPS細胞を活用すれば、容易に様々な細胞が入手可能となります。

国内生息絶滅危惧鳥類

2022年10月には、日本国内に生息する絶滅危惧種であるヤンバルクイナ、ライチョウ、シマフクロウ、二ホンイヌワシからiPS細胞が樹立されたとの報告がありました。作製されたiPS細胞は特定の細胞(例えば、神経細胞や肝細胞など)に分化誘導され、様々な研究で使用されることが期待されています。特に、鳥類においては、病原体への感染や環境汚染物質の被ばくの影響を評価する試験が考えられています。 感染症の一つとして、高病原性鳥インフルエンザが挙げられ、高病原性鳥インフルエンザで死亡した多くの野生鳥は、脳炎によって死亡することが分かっています。iPS細胞から作製された神経細胞を用いて、感染症による脳炎死のリスクをより適切に評価することが可能になります。

また、鉛中毒などの汚染物質による中毒も、野生動物の大量死の要因の一つとして知られています。このような物質の毒性評価には神経毒性評価および肝細胞の代謝評価が重要であることが認識されており、iPS細胞から作製される神経細胞だけでなく、肝細胞なども有用な研究材料となります。

まとめ

本コラムで紹介したように、人間の医療分野だけでなく、野生動物の分野でもiPS細胞の活用が進んでいます。iPS細胞から作り出される多様な細胞は、各種動物特有の生理現象や疾病メカニズムの解明、繁殖や保全のための基礎的な知見を得るために利用され、野生動物の生理・病理研究や保護活動に新たな局面を切り開いています。

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