【解説】DNA・遺伝子・ゲノムの関係性

 様々な形質が、親から子へ遺伝することは周知のことです。そして、遺伝に関する用語としてDNA・遺伝子ゲノムといった言葉もよく耳にします。しかし、これらの違いは必ずしも周知とは言えないのではないでしょうか。

これらの科学用語について解説いたします。

DNA(Deoxyribonucleic acid)

DNAとはデオキシリボ核酸の略です。2本鎖からなる構造をしていて、それぞれの鎖はヌクレオチドという単位が繰り返されてできています。ヌクレオチドは、糖・リン酸・塩基から構成されていて、塩基にはアデニン(A)、グアニン(G)、チミン(T)、シトシン(C)の4種類があります。DNAのヌクレオチド塩基は、「AとT」、「GとC」が水素結合で結びついて塩基対を構成しています。ちなみに、後で出てくるRNAは、リボ核酸(Ribonucleic acid)の略です。

ヒトはひとつひとつの細胞の中に、約60億塩基対のDNAを持っています。マウスでは約25億塩基対、メダカで約7億塩基対、キイロショウジョウバエで約1.7億塩基対、大腸菌で約500万塩基対となっています。また、植物のDNA量は一般的に多い傾向があり、イネでは約3.9億塩基対、ユリで約1200億塩基対と報告されています。

生物の細胞は分裂して増えていきます。その際、DNAはふたつの1本鎖になり、それぞれの1本鎖が2本鎖に複製され、塩基対の配列情報が、新しい細胞に引き継がれます。また、生殖細胞により、この配列情報は親から子へ継承されます。

遺伝子

DNAはRNAに転写されて、さらにアミノ酸に翻訳され、タンパク質となります。タンパク質はアミノ酸が連なった構造をしており、細胞の中で機能的に働きます。

このように、タンパク質に翻訳されるDNAの領域を遺伝子と呼び、ヒトのDNAでは、約2万種類の遺伝子が存在します。基本的に、ひとりの人間の体細胞は、すべて同じDNAを持ちますが、細胞の種類によって、使われる遺伝子は違います。脳では脳に必要なタンパク質が、肝臓では肝臓に必要なタンパク質がつくられるわけです。ヒトでは、約2万個の遺伝子があると考えられていて、多くの遺伝子は他の生物種においても類似の遺伝子が存在しています。また、DNAの塩基が失われたり、違う種類に置き換わってしまったりすると、遺伝子に突然変異を起こしたり、病気の原因となることがあります。

ゲノム

ゲノムとは、生物のもつ遺伝情報の全体を指す言葉で、その生物に必須な最小限のDNAのセットとなります。ヒトでは、父親由来のDNAと母親由来のDNAが1つの体細胞内にあるため、ゲノム2セットが含まれることとなります。

ヒトのゲノムの全塩基配列を解析するプロジェクトが、1990年から国際プロジェクトとして、開始され、2003年に解析が終了しました。ヒトゲノムのうち、アミノ酸の情報のある領域はわずかに1~2%です。それ以外の領域からタンパク質は翻訳されませんが、生体内の多様なプロセスに関与することが明らかになってきており、研究が盛んに行われています。

最後に

DNAの構造は、1953年、ワトソンとクリックの論文によってネイチャー誌に発表され、広く知られることとなりました。これにより、分子生物学の研究領域が急速に拡大しました。ゲノム解析に関しては、1990年からのヒトゲノム全解析の国際プロジェクトにより、飛躍的なイノベーションが起こりました。

こうして生命の神秘にせまるDNA・遺伝子・ゲノムに関する解析技術が進み、操作の方法も開発されてきました。数々の実験生物(菌・動物・植物)では、人工的な遺伝子を挿入した個体、系統も作成されています。さらには今後、ゲノム編集による遺伝子治療などの技術が期待されています。

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