精神・神経疾患研究のためのMEAシステム【前編】

アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、統合失調症、自閉症――。
これらはいずれも、1)精神疾患・神経疾患、2)つらい症状を引き起こす、3)現在は完全に治す手立てがない、という点が共通しています。

ポイントは「現在は」です。
医師や研究者たちは「将来」を見据えて、これらの精神・神経疾患を治す治療薬や治療法の研究に取り組んでいます。iPS細胞を活用した分野では、一例を挙げると患者由来のiPS細胞から作製された疾患モデルの神経細胞が広く用いられています。

神経細胞が活動するときには、超微弱な電気を発しています。その電気信号を測定することがこれらの病気を解明するカギになるかもしれません。

これらの神経細胞の活動を測定する機器に、MicroElectrode Arrayシステム(以下、MEAシステム)があります。
この記事では、神経細胞と電気信号の基礎知識を紹介したうえで、MEAシステムの特徴を解説します。

なおこの解説は2本の記事で行われ、本稿は第1回目となります。

精神・神経疾患と神経細胞の電気信号の関係

人の「考える」という現象は「脳が働いている」と表現できます。 では「脳が働いている」とはどのような状態かというと、神経細胞が活動(電気信号が発生)し、その信号が神経細胞で伝播されている状態です。さらに、体が動くときにも、神経細胞で発生した電気信号が関与しています。 では電気信号とは何なのでしょうか。

神経細胞の電気信号とは

脳波や心電図といった言葉を聞いたことがあるかと思いますが、体内では、神経細胞や心筋細胞から、電気信号が発生しています。さらに脳内では神経細胞間でネットワークが形成されていて、それらの細胞間で電気信号のやり取りが起こっています。

神経細胞間で電気差信号が伝達される場所はシナプスと呼ばれています。シナプスには、少しの隙間があり、2つの神経細胞が完全にくっついているわけではありません。1つの神経細胞が電気を発すると、それがシナプスまで到達します。すると、神経伝達物質が放出され、シナプスを渡って次の神経細胞に信号が届きます。神経伝達物質を受け取った神経細胞は自身も電気を起こし、神経伝達物質をその次の神経細胞に伝えます。

このような神経細胞での電気信号が脳内では絶え間なく発生しています。

例えば認知症は神経細胞が死んで起きる

認知症を起こす病気はいくつかありますが、その1つにアルツハイマー病があります。
1つの仮説とではアルツハイマー病では脳内にアミロイドβ(ベータ)という物質が蓄積することで発症すると考えられていて、アミロイドβが増えると神経細胞が死んでしまうといった報告や、アルツハイマー病とシナプス機能の低下が関連しているといった報告もあります。

精神・神経疾患では、このように神経細胞を喪失することや神経細胞自身の活動および神経細胞間のネットワークの異常が原因の一つであると考えられています。そのため、神経細胞の電気信号を測定することが重要となります。

まとめ

脳内には、多数の神経細胞が存在していて、さらにネットワークを形成しています。このネットワークを介して電気信号が伝播されることで、人は様々ことを営んでいます。神経・精神疾患では、この神経細胞間のネットワークや神経細胞自身の活動に異常が起きることが原因の一つであると考えられています。そのため、研究開発においては神経細胞の電気信号を測定することが重要となります。次回のコラムでは、MEAシステムと呼ばれる測定方法の特徴を解説します。

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