精神・神経疾患研究のためのMEAシステム【後編】
神経細胞の電気信号を測定する機器MicroElectrode Arrayシステム(以下、MEAシステム)について解説します。
この解説は2本の記事で行われ、本稿は2回目です。MEAシステムは、微小平面電極の上で細胞を培養して、その細胞が発生する電気信号を測定する装置で、主に神経細胞や心筋細胞の細胞外電位の測定・解析に用いられています。MEAシステムには以下のような特徴があり、精神・神経疾患研究の分野で使用されています。
未経験者でも簡単
MEAシステムの大きな特徴は、電気生理学的な測定が未経験の研究者でも容易に使用できることです。MEAシステム以外に、細胞の電気信号を測定する手法で最も使用されているのはパッチクランプ法ですが、この手法を使いこなすには高い技術と様々な装置のセットアップが必要となります。しかしMEAシステムは、「細胞をセットするだけ」で大体の準備は終了し、測定と解析も半自動で行われるため、未経験の研究者でも簡単に取り扱えます。多くの研究者が神経細胞の研究に専念できるわけです。
どのような作業になるかというと、MEAシステム専用プレート(底面に微小電極が配置されています)に測定したい細胞を播種して、機器にセットするだけとなります。細胞を扱ったことのある研究者なら難しい作業ではありません。
細胞へのダメージレス
上述したように、細胞をプレートに播種するだけで測定が可能なので、MEAシステムでの測定中に細胞へダメージはほとんど加わりません。そのため、同一の細胞集団を継続して(数か月に渡って)測定することができます。例えば、iPS細胞から作られる神経細胞では、培養期間に応じて神経活動が増加(成熟)しますが、そのような変化を長期間測定し、評価することが可能です。パッチクランプ法では、測定したい細胞に針を刺してしまい、その細胞を翌日以降に測定することは不可能です。また、色素を加えて細胞を測定することも広く行われていますが、その場合でも、細胞は色素によるダメージを受けてしまい、長期間の測定には適しません。
一度に多くの測定
MEAシステムが開発された当初は1ウェルだけしか測定ができませんでした。これは、1度に1条件しか測定できないということです。しかしながら、最近の機種(例えばAxion Biosystems社のMaestro Pro)では、96ウェルプレートを用いて測定できます。1度に測定できる試験回数が、格段に増えたことにより、幅広いニーズに応えられるようになりました。さらに、MEAシステムでは、1条件で1つの電極ではなく多くの電極が使用されているので、神経細胞間のネットワークの測定・解析に非常に有用なシステムとなっています。精神・神経疾患では、個々の神経細胞の活動だけでなく、ネットワークの異常が疾患と密接に関与していると考えられており、これらの疾患研究には欠かせないツールとなると思われます。
まとめ
現在、精神・神経疾患においては、効果的な治療薬が無い疾患が多く残っています。これらの治療薬の開発には、神経細胞自身の特徴を調べることが必須となります。そのために、パッチクランプ法などで、神経細胞の電気信号が測定されてきました。これからは、さらにMEAシステムが有効に活用されることで、研究・開発がより進展することが期待できます。
■当社関連製品・サービス
iPS細胞受託サービス(疾患モデル作製) : https://reprocell.co.jp/ipsc_services_190121
Maestro Pro/Edge : https://reprocell.co.jp/axion-biosystems