iPS細胞が変える未来の不妊治療技術:卵子の体外成熟技術
近年、体細胞から再び多能性を持つ状態へと初期化される人工多能性幹細胞(iPSC)は、再生医療のみならず、がんや免疫疾患など多様な医療領域で革新を起こしています。その中でも注目されているのが、女性の生殖支援に革新をもたらすiPSC応用技術のひとつ――Fertiloです。
1. Fertiloとは何か?
FertiloはGameto社が開発した、iPSCを用いた卵母細胞成熟支援技術です。卵子が成熟する過程では、通常、高用量ホルモンを10〜14日間投与し卵巣刺激を行います。しかしFertiloでは、iPSCから高純度・高機能性の卵巣サポート細胞(OSCs: ovarian support cells)を生成し、卵子を「卵巣そのもの」のような環境下で短期間2〜3日で成熟させる点が特徴です。これによりホルモン注射量が約80%削減され、患者の負担が大幅に軽減される画期的なアプローチです。
2. 実績と臨床試験の進展
- 世界初のFertilo技術による生児誕生
2024年12月、ペルーのクリニックでFertilo技術を使用した卵子から世界初となる生児の出産が報告されました。これはiPSC由来のOSCを用いた体外成熟培養(in vitro maturation:IVM)からの実際の出産例としては初であり、技術の臨床可能性を大きく後押ししています。 - FDAによる米国Phase 3 IND承認
2025年1月、GametoはFDAに提出していたFertiloのInvestigational New Drug(IND)申請が承認され、米国でフェーズ3試験(第III相臨床試験)を開始できる体制が整いました。これは、再生医療領域におけるマイルストーンとなります。
3. Fertiloのメリットと医療的インパクト
- 短期間・低コスト・低負担
Fertiloでは、高用量ホルモンの代替としてOSCを用いるため、注射量は約80%削減され、期間も通常10–14日から2–3日に短縮されます。これは、体への負担を大幅に軽減し、クリニックへの通院回数やホルモン副作用も軽くする可能性があります。 - 高い安全性と生殖成功率
2025年4月には、フェーズ2相相当の初期試験で標準IVMの2倍以上の妊娠率を達成したと報告されており、これはFertiloの有効性を支持する初のエビデンスです。
4. サイエンス的意義と将来展望
- 生殖科学への革新
iPSC由来のOSCを卵子成熟へ応用することで、体外における卵巣機能の再現が可能となりました。これは細胞工学と生殖医学の融合であり、研究者にとっては卵子発育メカニズムの解析や編集など新しい研究領域への扉となります。 - 患者オーダーメード医療へ
将来的には、患者自身から採取した体細胞(皮膚、血液など)をiPSC化し、そこからOSCを生成するといったオーダーメイドモデルが考えられます。これにより、免疫適合性の高いモデルや希少疾患の治療研究としても展開可能です。 - さらなる拡張性
Fertiloプラットフォームには閉経後ホルモン補充や卵巣ガンなど、他の生殖医療への応用も検討されています。OSCを中心とした細胞工学技術が多様な領域へ波及する可能性が期待されます。
終わりに
Fertiloは、iPSC技術を女性の健康、そして家族を望む人々へ向けたソリューションに変換した、細胞工学と医療応用の象徴的プロジェクトです。2025年現在、FDAによるINDクリアランス取得と、世界初の生児誕生という2つの大きな前進が得られており、成功すればIVFの常識を根本から変える可能性があります。
関連製品・サービス
臨床グレード(臨床用)iPS細胞:https://reprocell.co.jp/clinical_ipsc/
再生医療等製品受託サービス:https://reprocell.co.jp/ipsc-regenerative
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