移植に関与するHLA(ヒトMHC)とは

HLA(Human Leukocyte Antigen:ヒト白血球抗原)という言葉を聞いたことはありますか。移植に関与したことがある人は、ご存知かと思います。
今回は、HLAと移植の関わりについて解説したいと思います。

HLA=ヒトMHC(主要組織適合遺伝子複合体)

 HLAは1954年に白血球の血液型として発見され、その後、HLAがヒトのMHCあることが明らかとなりました。MHCは、体内に侵入した異物から身を守る免疫反応と深く関わっている分子です。
免疫には、生まれつき備わっている自然免疫と、生後身に付く獲得免疫があります。獲得免疫においては、免疫細胞(T細胞)が侵入してきた異物を認識することで、異物を攻撃できるようになります。T細胞は、異物を取り込んだ細胞の表面に提示された異物の断片(抗原)と結合することで、異物を認識します。この抗原の提示において、異物の断片を乗せる台座となるのがMHC(ヒトではHLA)です。例えば、ウイルスが体内に入ってきた場合には、感染された細胞は細胞内に侵入したウイルスの断片をMHCにはめ込み、それを細胞の表面に出してT細胞に提示します。T細胞は病原体の断片とMHCをセットで認識することで、病原体の情報を獲得します。

HLAと自他の認識

 HLAは大きくClassIとClassIIに分けられ、ClassIには、A、B、Cなど、ClasIIには、DP、DQ、DRなどがあり、これらのHLAはそれぞれ、父由来のものと、母由来のものの各2セットが遺伝的に引き継がれます。さらに、各タイプには、多くの種類が存在しているため、非常に多様なHLAタイプの組み合わせが起こります。このような多様な組み合わせのあるHLAは、免疫反応において自分と他人とを区別することに利用されます。移植により、体内に入った組織や細胞は異物として免疫から攻撃を受ける可能性がありますが、その細胞の持つHLAのタイプが自分のタイプと同じであれば、免疫からの攻撃を避けることができます。そのため、移植時には、ドナーとレシピエントのHLAタイプが調べられています。HLAは両親から、遺伝的に受け継ぎますので、兄弟などの血縁者の間では、HLAタイプが似ている可能性が高くなります。骨髄バンクや臍帯血バンクでは、ドナー候補のHLAタイプの情報が登録されていて、移植に適したドナーが選ばれます。

また近年、iPS細胞のような万能細胞から欲しい細胞を作り、それを移植する細胞移植治療の研究や実用化が進んできています。この場合、自分のiPS細胞を用いれば、HLAのタイプの違いによる免疫拒絶は起こりませんが、他人から作製されたiPS細胞を用いる場合は、HLAタイプの違いによる免疫拒絶が起こるリスクが高くなります。このリスクを低減するために、HLAの発現に関連する遺伝子(M2B、CIITAなど)を編集したiPS細胞の作製も進められています。

まとめ

 HLAはヒトのMHCで、免疫での抗原提示のときに使用されます。HLAは非常に多くのタイプが存在していて、この多様性によって、HLAは一人一人の細胞を識別する目印として利用されます。そのため、臓器や細胞を移植する際はHLAタイプをある程度合わせることが行われています。またiPS細胞を用いた再生医療においては、HLA関連遺伝子のゲノム編集による拒絶リスクの低いiPS細胞の作製が進められています。

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