アストロサイトは脳内環境の調整役 <わかりやすく解説> 前編

脳に存在する細胞の中で神経細胞(ニューロン)はよく知られていますが、アストロサイトという細胞はご存じでしょうか。少し詳しい方は、神経細胞が脳内でネットワークを形成して、電気信号のやり取りをおこなっていると聞いたことがあるかと思います。アストロサイトは、「神経細胞とは異なり電気信号を発生しないため、脳が働くために必要な情報伝達には関わっていない」と考えられ、その重要性が見過ごされてきました。
しかし近年の研究で、アストロサイトが神経細胞の活動を直接的かつ積極的に調節するなど、脳が健全に働くために重要な役割をはたすことがわかってきています。

アストロサイトとは、脳内を満たすグリア細胞の1種

脳は、神経細胞(ニューロン)、血管、グリア細胞の主に3つの要素で構成されています。アストロサイトはグリア細胞の1種です。“アストロ”は“星の”という意味で、細胞の形態が星のように見えることから名付けられました。実際は、多数の突起を四方八方に伸ばしてより複雑な形態をしています。この突起は先端がシート状で、神経細胞同士の接合部位であるシナプスと脳血管を覆っています。ヒトのアストロサイトは、1個あたり推定200万個以上のシナプスに関わっていると考えられています。

アストロサイトは脳内環境を整え、神経細胞の働きをサポート

シナプスとの関わりが深いアストロサイトは、脳内でどのような役割を担っているのでしょうか。アストロサイトの役割は、大きく2つにわけられます。脳内において神経細胞による情報伝達をサポートする役割と、情報伝達をコントロールする役割です。今回は、前者について簡単に説明します。

神経細胞を物理的に支持

アストロサイトは突起を伸ばし脳内に網目状に広がっていて、脳を物理的に支えています。神経細胞はアストロサイトの網目を縫うようにネットワークを形成し、脳内空間に物理的に固定されています。

血管から神経細胞へエネルギー供給を仲介

体内の通常の細胞は、血管から栄養やエネルギーを吸収していますが、神経細胞は血管に直接接しているわけではありません。そのためアストロサイトを介して血管からエネルギーを得ているのです。血管内のグルコースは、血管を覆う突起からアストロサイトに取り込まれ、グリコーゲンとして貯蔵されています。このグリコーゲンを活用し、神経細胞へエネルギーを供給しています。

神経細胞外環境の調節

神経細胞が電気信号を受けて活動すると、神経細胞外の環境(イオン濃度)が変化します。アストロサイトにはイオンの通り道となるポンプやチャネルがあり、それを利用して、細胞外の環境を維持します。
また、神経細胞間での信号のやり取りでも細胞外環境は変化します。神経細胞間のやり取りに用いられた神経伝達物質が細胞外に放出され、その量が過剰となるのです。このような過剰な神経伝達物質はアストロサイトに取り込まれ、安定した環境が維持されています。

血液脳関門の一部として機能

脳は非常に大切な組織です。そのため脳内に有害な物質が入り込めない構造となっています。その構造は「血液脳関門」と呼ばれ、関所のような働きをしています。アストロサイトは突起を伸ばし、脳の血管を覆っています。血管からアストロサイトを通過した物質だけが神経細胞にたどり着けるのです。このようにして、神経細胞まで届く物質は選別されています。

まとめ

アストロサイトは脳内の環境を整え、神経細胞による情報伝達がスムーズにおこなわれるサポートをしていることを説明しました。しかし、アストロサイトの役割は情報伝達のサポートだけにとどまりません。
後編では、アストロサイトが主導的に情報伝達をコントロールする役割について解説します。

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