アストロサイトが脳の機能をコントロールする
<わかりやすく解説>後編

アストロサイトについて、わかりやすく解説するコラムの後編です。
前編では、次のことを紹介しました。

・アストロサイトは脳内空間を満たすグリア細胞の1種
・脳内環境を調整し、神経細胞(ニューロン)の情報伝達をサポートしている

後編では、アストロサイトが脳内環境を整えるだけでなく、脳内での情報伝達をコントロールし、重要な役割をはたしていることを説明します。

アストロサイトは積極的に情報伝達に関わっている

長い期間、アストロサイトは、顕著な電気活動が確認されず、脳内で目立った活動をしていないと考えられていました。しかしながら、アストロサイト内のカルシウムイオン濃度が活発に変化していることが明らかになり、アストロサイトの動的な機能も注目されるようになりました。
この発見により、アストロサイトは神経細胞の情報伝達を積極的にコントロールしていると考えられるようになりました。詳しく見てみましょう。

アストロサイトと神経細胞はお互いに情報伝達をおこなう

情報伝達は神経細胞のネットワークだけで起こると考えられてきましたが、そうではありません。神経細胞から放出されるセロトニンなどの多くの神経伝達物質に反応し、アストロサイト内部のカルシウムイオン濃度が変化することが分かってきました。確かに、アストロサイトは、主要な神経伝達物質を受け取るための受容体を有していることが知られていました。このような、アストロサイト内部のカルシウムイオン濃度の上昇により、アストロサイトからも神経伝達物質が細胞外に放出されます。放出された神経伝達物質は、シナプスから神経細胞に取り込まれます。つまり、神経細胞からアストロサイトへ、アストロサイトから神経細胞へと、神経伝達物質を介してお互いに情報伝達が起きています。 さらに、近接するアストロサイトにおいて、カルシウムイオン濃度の変化が広がり、アストロサイト間のネットワークでも情報の伝達がおこなわれています。

シナプスの機能に影響を与える

シナプス間の情報伝達の効率は、外部からの刺激によって持続的に変化し、学習や記憶に関与していると考えられています。このような変化が起こることをシナプス可塑性と呼びます。アストロサイトの突起はシートのような形状でシナプスを覆い、シナプス間の情報の伝わりやすさを調整しています。アストロサイトで覆われたシナプスは、シナプス可塑性が起きやすく、情報伝達しやすい状態となります。また、アストロサイトの突起に覆われているシナプスは、覆われていないシナプスに比べて、寿命が長く、より成熟しているとの報告もあります。

アストロサイトはさまざまな病気に関連する

アストロサイトは、脳にとってなくてはならない存在であり、うまく機能しなくなると、さまざまな病気をひきおこす場合があります。 例えば、アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患、てんかん、虚血性脳卒中などです。さらに、2つの神経細胞とアストロサイトで形成される「三者間シナプス」の破綻やシナプス機能のバランスが崩れると、うつ病などの精神疾患の発症につながると考えられています。

まとめ

今回のコラムでは、神経細胞だけでなく、アストロサイトも脳の機能をコントロールする重要な存在であることを説明しました。今後もアストロサイトが脳内でどのように機能しているのか、さらなる解明が期待されています。これまでアストロサイトに関する研究は、動物の細胞などに頼ってきましたが、近年はヒトiPS細胞からアストロサイトの作製が可能となり、研究に利用されています。

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